歯周病の矯正治療と治療例

歯周病治療の最終的なゴールは、きちんと噛める機能を回復することです。
重度の歯周病では、歯を失ったり歯並びが悪くなってしまうことがほとんどですが、歯の欠損を補い、噛む機能を回復するために矯正治療が有効なケースがあります。

歯周病とは

歯周病(歯肉炎・歯周炎)は、歯垢(プラーク)や歯石の中にいる歯周病菌と呼ばれる細菌が原因で引き起こされる歯の周辺組織の病気です。虫歯とは違い痛みのないまま進行していくため、気づいた時にはかなり酷い状態になっていた、ということがよくあります。
また、歯周病は治療をしない限り症状が改善されることはありません。

歯には歯周ポケットや歯の間など、どうしても磨きにくい場所があります。歯磨きでは取り除くことができなかったプラークは、唾液中のカルシウムによって、約2週間で歯石となります。歯石になってしまうと、歯磨きでは取ることができません。歯石そのものに害はありませんが、歯石にはプラークが付着しやすいため除去する必要があります。
放置し続けると、歯ぐきに炎症が起き、虫歯や歯周病になってしまうのです。

また、歯周病においては痛みのないまま慢性的に進行します。
歯肉からの出血や歯の揺れがひどくなってから気が付くことが多いため、やがて歯周病菌による歯槽骨(歯を支える骨)の破壊が進み、歯の根元が露出して、歯がぐらつき始めます。体は歯周病菌に侵された歯を異物とみなし、排除しようと歯槽骨を溶かすため、最悪の場合、歯槽骨を守るために歯を抜かざる得なくなることがあります。

歯周矯正治療例

重度の歯周病では、歯周病が改善されても歯並びがガタガタになってきちんと噛めなくなってしまったり、歯が抜けてしまったために隙間ができたりして見た目が悪くなったりすることがあります。
歯周病によって失われた審美性の回復と、何よりもふたたびきちんと噛めるかみ合わせを作るために矯正治療が用いられます。

歯周矯正治療例

歯周病専門医と連携して治療を行った症例です。審美性改善とメンテナンスをしやすくすることを目的とした歯周矯正を行いました。

歯周矯正治療前の歯並び

矯正治療前の歯並び

初診時36歳の男性です。
歯肉からの出血と排膿が見られたため、歯周病専門医にて歯周病の治療を開始しました。

歯周病の治療について
歯垢(プラーク)に含まれる細菌が原因の病気です。歯周病治療とは、プラークがたまりにくいお口の環境を作ることです。そのためにはまず、スケーリングで歯周ポケットに入りこんだプラークや歯石(プラークの死骸のようなもの。歯石そのものに害はありませんが、歯石にはプラークが付着しやすいため、除去が必要)を取り除きます。次にルートプレーニングで歯の根をつるつるにし、プラークをつきにくくします。
それ以上に大切なのは、歯磨きやクリーニングです。治療が終わってもメンテナンスを怠らず、毎日しっかりと歯を磨き、定期的にクリーニングを受けてお口の中を清潔に保っておかないと、歯周病はすぐに再発してしまいます。

歯周矯正開始

歯周矯正開始

歯周病が改善されてから、審美性の改善とメンテナンスをしやすくするために保存不可能であった左下1番を抜歯して矯正を行いました。

歯周矯正治療後の歯並び

歯周矯正開始

前歯のデコボコが取れ、お口のケアをしやすい歯並びとなりました。治療後の患者様のプラークコントロールは良好で、歯周病の症状も落ち着いています。

こちらの患者様は矯正治療単独で咬合機能の回復を行いましたが、歯周病による欠損歯が多い場合は歯科矯正用アンカースクリューやブリッジを用いることもあります。

歯科矯正用アンカースクリューを埋入するためのスペースを作るための部分矯正(MTM)を行うこともあり、また、歯周病の再発への配慮も求められるため、歯周矯正は一般的な矯正治療とは異なるアプローチが必要になります。

主訴 上の前歯のすきま
診断名 重度の歯周病・空隙歯列弓
治療内容 スタンダードエッジワイズ法にて矯正治療を行いました。歯周病専門医とタイアップして治療をすすめました。
治療に用いた主な装置 マルチブラケット装置
費用(自費診療) 約66万円~100万円(税込)
通院回数/治療期間 毎月1回程度/約2年
副作用・リスク 装置を初めて装着した時とワイヤーの調節を行った直後に数日間痛みを感じる場合があります。
歯に矯正装置を装着するため、歯磨きをしづらくなって磨き残しが多くなり、虫歯や歯周病にかかりやすくなることがあります。
歯を動かすことにより、歯根吸収や歯肉退縮が起こる場合があります。
歯並びを整え、きちんと噛めるかみ合わせと調和の取れた口元を作るために、やむを得ず健康な歯を抜く場合があります。
保定のためのリテーナーを適切に使用しないと後戻りする場合があります。

歯周病の方の矯正治療

「歯科疾患実態調査(厚生労働省/2016年)」では、全年齢層の約4割の人に歯肉出血が認められています。また、「第2回 永久歯の抜歯原因調査(公益財団法人8020推進財団/2018年)」によると、歯を失う二大原因が「歯周病」と「虫歯」でした。

むし歯、歯周病の説明
むし歯、歯周病の説明

(公財)8020推進財団 第2回 永久歯の抜歯原因調査報告書 2018年11月

これから矯正治療を始めようと相談にいらっしゃる方の中にも、歯周病の症状がみられる方が大勢いらっしゃいます。歯周病の症状が認められる方は、矯正治療の前に歯周病の治療を受けていただきます。歯周組織に問題を抱えている状態で歯を動かすことは好ましくないということもありますが、お口の中を清潔に保つためのプラークコントロールが十分でないことが最も問題となります。
矯正治療中は普段よりもお口のケアが不十分になりがちです。歯周病が改善されていない状態で矯正治療を開始することは、歯周病を悪化させることにもつながります。

お口の状態によりますが、最近では歯周病がかなり進行している方でも、歯周病治療後に矯正治療を行うことが可能です。まずはきちんと歯周病治療を受け、お口の環境の改善を行ってください。

歯周病治療としての矯正治療(歯周矯正)

軽度の歯周病は歯肉が腫れる程度ですが、進行すると歯を支える骨(歯槽骨)が溶けてなくなり、歯がグラグラしたり抜けてしまったりします。

失われた歯や歯槽骨は元に戻ることはありませんので、歯周病の治療が終わっても、かみ合わせが悪くなったり、噛む機能が損なわれたり、見た目が悪くなったりすることがあります。そのようなケースでは、矯正治療を用いてかみ合わせや歯列を改善し、機能や審美性を回復できる場合があります。

歯周病治療のための矯正治療
  • 傾いた歯をワイヤーで引っ張り、垂直に戻す
  • 歯の欠損によりできた隙間を、歯の移動により埋める
  • 歯科矯正用アンカースクリューやブリッジを併用し、咬合機能を回復する
  • メンテナンスがしやすい歯列を作る